小説
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泥の千
干潟の数え方の1728。高原の千と区別して言う。
vírim slúun, na vírim sélu.
読み:ヴィーリン スルーン、ナ ヴィーリン セール。
| vír-im | slúun, | na | vír-im | sélu. |
| 言う-<私が> | 千 | <〜ない> | 言う-<私が> | 泥の千 |
「陸の千と言っているのだ。泥の千とは言っていない。」
縁の市でよく起こる言い争いの決まった言い方。slúun(1000)と、干潟から借りた sélu(1728)を言い分けている。na は動詞の直前に置くので、後半では動詞 vírim を繰り返す。語をそのまま引いて言うときは、slúun も sélu も格の語尾をつけない。
selvána ausenár ré lisésa orenvandár slúun, mé lisésa sélu.
読み:セルヴァーナ アウセナール レー リセーサ オレンヴァンダール スルーン、メー リセーサ セール。
| selván-a | au-sen-ár | ré | lis-és-a | orenvandár | slúun, | mé | lis-és-a | sélu. |
| おっしゃる-<(軽いものが)> | <お〜になる・御〜>-見る-<〜する人> | <〜と(節)> | 書く-<〜すべし>-<(軽いものが)> | 縁商人<主格> | 千 | <禁止・願いの打ち消し> | 書く-<〜すべし>-<(軽いものが)> | 泥の千 |
「目付殿は、「縁商人は陸の千で書くべし、泥の千では書かぬこと」とおっしゃる。」
市の目付の裁きを人に伝える言い方。ré の後ろの節は、決まりごとを表す当為法のまま引いている。後半は主語を言っていないが、前半と同じ縁商人のことを言っている。証文の数は高原の数え方で書く、という市の決まりを表す。
vírim sélu lénar sáindarar, na vírim slúun.
読み:ヴィーリン セール レーナル サインダラル、ナ ヴィーリン スルーン。
| vír-im | sélu | lén-ar | sáindar-ar, | na | vír-im | slúun. |
| 言う-<私が> | 泥の千 | 枚-<〜らの> | 証文-<〜らの> | <〜ない> | 言う-<私が> | 千 |
「私が言っているのは泥の千枚の証文だ。陸の千ではない。」
縁の市で、数の取り違えを防ぐための念押し。sélu も slúun と同じく、量の名詞を複数属格でとる。干潟の数え方の1728枚なのか、高原の1000枚なのかを、二つの語を言い分けてはっきりさせている。
lúin vírim sélu, glǘna senár.
読み:ルーイン ヴィーリン セール、グリューナ セナール。
| lúin | vír-im | sélu, | glǘn-a | sen-ár. |
| とき | 言う-<私が> | 泥の千<対格> | 冷たく黙る-<(軽いものが)> | 見る-<〜する人> |
「「泥の千」と口にしたとたん、目付は冷たく黙りこむ。」
縁の市でのくだけた陰口。sélu は干潟から借りた語なので重性で、主格と対格が同じ形になる。lúin の節は主節の前に置く。主語の senár は人なので、動詞は軽性の -a をとる。
hálimor slúun dalorárar sélu.
読み:ハーリモル スルーン ダロラーラル セール。
| hál-imor | slúun | dalor-ár-ar | sélu. |
| 呼ぶ-<我々が> | 千<対格> | 下の国-<〜する人>-<〜らの> | 泥の千<対格> |
「我々は下の国の者たちの千を「セル(泥の千)」と呼ぶ。」
縁の市で、二つの「千」を言い分けることを説明する文。二つ目の対格 sélu は干潟語から借りた語なので重性で、対格も主格と同じ形になる。からかいの響きを帯びた呼び方である。
当てにならない大きな数
からかいの言い方で、食い違いやごまかしのありそうな大きな数を言う。
ésa rimbá sé sélu!
読み:エーサ リンバー セー セール!
| és-a | rimbá | sé | sélu! |
| いる-<(軽いものが)> | 数<主格> | この<軽性> | 当てにならない大きな数 |
「こんな数、当てになるもんか!」
運び人や崖道の商人が言う、からかいの言い方。「この数は泥の千だ」という形で、話を盛った数や、ごまかしの入っていそうな大きな数をけなす。改まった場では使わない。
lísa orenvandár sélu sáindarei.
読み:リーサ オレンヴァンダール セール サインダレイ。
| lís-a | orenvandár | sélu | sáindar-ei. |
| 書く-<(軽いものが)> | 縁商人<主格> | 当てにならない大きな数 | 証文-<与格> |
「縁商人のやつ、証文にいい加減な大きな数を書いている。」
陰口の文。sélu をここで1728の意味にとる必要はなく、「食い違いのありそうな、怪しい大きな数」という意味になる。sélu は干潟からの借用語で重性なので、目的語でも主格と同じ形のまま。
干潟の十二進法の大きな位、すなわち1728を指す語。高原の「千」slúun が干潟語に入って sëlu になり、それが高原語に借り戻された形。高原の千(1000)と食い違うことが縁の市の揉め事の種になるので、高原の人は slúun を「陸の千」、sélu を「泥の千」と言い分け、からかいをこめて使う。干潟から借りた語なので重性に入る。
数詞(名詞として働く)。重性・o型ではなく無強勢の -u で終わる借用語で、格語尾は重性の子音語幹に準じる。
干潟語 sëlu からの借用。sëlu は統一期に高原語 slúun「千」が干潟語へ入った形で、ë を e に置き換えて借り戻した。
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