小説
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掛け
精算していない代価・借り。
lúin na tóro nébro, méirim grúndo.
読み:ルーイン ナ トーロ ネーブロ、メーリン グルンド。
| lúin | na | tór-o | nébro, | méir-im | grúndo. |
| とき | <〜ない> | 来る-<(重いものが)> | 霧期<主格> | 与える-<私が> | 掛け<対格> |
「霧期が来ないうちに、掛けを払います。」
縁の市での、精算の約束の言葉。霧の中で結んだ約束は重んじられないので、精算はかならず霧期の前に済ませる。同じことを市では、決まり文句の an nébroi「霧の前に(期限までに)」で言うことが多い。
méirim grúndo tásei an duliþímei fáronos.
読み:メーリン グルンド ターセイ アン ドゥリシーメイ ファーロノス。
| méir-im | grúndo | tás-ei | an | dul-iþ-ím-ei | fáron-os. |
| 与える-<私が> | 掛け<対格> | <あなた>-<与格> | 〜の前に | 下る-<〜させる>-<〜の技・〜さ>-<与格> | 荷-<属格> |
「掛けは、荷を下ろす前にお前に払う。」
縁の市での約束の言い方。時間は川の流れにたとえられ、早いほうが上手なので、an+与格が「〜の前に」の意味になる。duliþímei は dulíþ-「下ろす」に -ím「〜すること」がついた名詞の与格で、強勢は -ím に移る。同じ組み立ての決まり文句に an nébroi「霧の前に(=期限までに)」がある。
mé véil grúndo! torélo nébro.
読み:メー ヴェール グルンド!トレーロ ネーブロ。
| mé | véil | grúndo! | tor-él-o | nébro. |
| <禁止・願いの打ち消し> | 忘れる<命令法><あなたが> | 掛け<対格> | 来る-<〜だろう>-<(重いものが)> | 霧<主格> |
「掛けを忘れるなよ。もうすぐ霧が来るぞ。」
縁の市で商人どうしが交わす念押し。禁止は「mé+命令法」で、命令法2単はむき出しの語幹 véil。grúndo は重性o語幹なので、対格も主格と同じ形。後半は推量法で、主語の霧 nébro が重性なので語尾は -o。霧が来る前に精算する、という市の習わしを踏まえている。
vandésa grúndo kéndoros orénos.
読み:ヴァンデーサ グルンド ケンドロス オレーノス。
| vand-és-a | grúndo | kéndor-os | orén-os. |
| 量る-<〜すべし>-<(軽いものが)> | 掛け<対格> | 縁の市-<属格> | 縁-<属格> |
「縁の市の掛けは、量って(精算して)おくべし。」
度量衡の碑に刻まれた市の決まりを思わせる、当為法の文。主語を言わないので一般の人が主語になり、軽性の形をとる。kéndor orénos で「縁の市」を表し、ここでは grúndo「掛け」にかかる属格になっている。
þundésa senár grúndo kéndoros orénos.
読み:スンデーサ セナール グルンド ケンドロス オレーノス。
| þund-és-a | senár | grúndo | kéndor-os | orén-os. |
| 裁く-<〜すべし>-<(軽いものが)> | 目付<主格> | 掛け<対格> | 縁の市-<属格> | 縁-<属格> |
「目付は縁の市の掛け(の揉め事)を裁くべし。」
碑文の文体の当為法。碑文や法典では、役職を au- をつけずに一般の名として書く。senár は軽性なので、当為法の動詞も軽性の -a をとる。
méir grúndo, ende.
読み:メール グルンド、エンデ。
| méir | grúndo, | ende. |
| 与える<命令法><あなたが> | 掛け<対格> | どうぞ |
「掛けを払ってくれ、頼む。」
縁の市の取引言葉。掛けを「払う」は méir-「与える」で言い、動詞はむき出しの語幹の形になる。grúndo は重性o語幹なので、もともと主格と対格が同じ形。ende は願望法の語尾が固まってできた「どうぞ・頼む」。
rímba lisár grúndo.
読み:リンバ リサール グルンド。
| rímb-a | lis-ár | grúndo. |
| 数える-<(軽いものが)> | 書く-<〜する人> | 掛け<対格> |
「書記が掛けを数え合わせる。」
grúndo は重性o語幹なので、対格も主格と同じ形になる。ここでは単数で、掛けの全体をひとまとまりとして言っている。帳面の見開きの片側に下ろし荷を、もう片側に上げ荷を書き、両方を突き合わせて掛けを精算する。
þúnda senár grúndo faronárar.
読み:スンダ セナール グルンド ファロナーラル。
| þúnd-a | sen-ár | grúndo | faron-ár-ar. |
| 裁く-<(軽いものが)> | 見る-<〜する人・主格> | 掛け<対格> | 荷-<〜する人>-<〜らの> |
「目付は運び人たちの掛けをめぐる揉め事を裁く。」
縁の市の慣行を述べる文。grúndo「掛け」は重性の o語幹なので、対格も主格と同じ形になる。属格 faronárar は名詞の後ろに置く。
auþundénde ausenár grúndo.
読み:アウスンデンデ アウセナール グルンド。
| au-þund-énd-e | au-sen-ár | grúndo. |
| <お〜になる・御〜>-決着をつける-<〜しますように>-<(軽いものが)> | <お〜になる・御〜>-見る-<〜する人・主格> | 掛け<対格> |
「目付殿に、掛けの決着をつけていただきたく存じます。」
市で揉め事が起きたとき、都の手代が目付に頼む上向きの言い方。命令の代わりに願望法の3人称を使い、目の前の相手を役職名+au- の主語として扱う。
þundéla senár grúndo, na gruunéimor.
読み:スンデーラ セナール グルンド、ナ グルーネーモル。
| þund-él-a | sen-ár | grúndo, | na | gruun-é-imor. |
| 決着をつける-<〜だろう>-<(軽いものが)> | 見る-<〜する人・主格> | 掛け<対格> | <〜ない> | 怒る-<〜だろう>-<我々が> |
「目付が掛けの決着をつけてくれよう。そうなれば我々も腹を立てずにすむ。」
市で言い争う二人をなだめるときの、並びの話し方。senár は軽性なので、動詞は軽性の -a をとる。後半の推量法は na で否定し、1人称の語尾の前では -él- の l が落ちる。
ruunléima lisár grúndo vándarei.
読み:ルーンレーマ リサール グルンド ヴァンダレイ。
| ruunléim-a | lisár | grúndo | vándar-ei. |
| 返す-<(軽いものが)> | 書記<主格> | 掛け<対格> | 商人-<与格> |
「書記は商人に掛けを返す。」
grúndo「掛け・負債」のような抽象的な借り・負い目を返す用法。物の返却と同じく、返されるものを対格、相手を与える格にとる。帳簿・商取引の場面を想定する。
du nebroþaló, na rímba vándar grúndo.
読み:ドゥ ネブロサロー、ナ リンバ ヴァンダル グルンド。
| du | nebroþaló, | na | rímb-a | vándar | grúndo. |
| 下手 | 霧明け<対格> | <〜ない> | 数える-<(軽いものが)> | 商人<主格> | 掛け<対格> |
「霧明けまでは、商人は掛け勘定を数えない。」
帳簿・市の記述で、霧明けを期限として、それまで掛け勘定を数えないことを言う文。du+対格は時間上の「〜まで」を表す。nebroþalóは重性名詞で、単数主格・対格は同形。主語のvándarは軽性なので動詞は3人称単数軽性の-aをとり、grúndoは重性名詞の単数対格で無標識。
na bréunim grúndul
読み:ナ ブレウニン グルンドゥル
| na | bréun-im | grúnd-ul |
| <〜ない> | 積む-<私が> | 掛け-<〜たちを> |
「私は借りを積まない。」
日常の会話で、自分の債務・負担を増やさない意思を述べる文。掛け(grúndo)の複数対格は grúndul。否定の na は動詞の直前に置く。比喩用法であり、物を物理的に重ねる意味ではない。
bréuna vándar grúndul faronárei
読み:ブレウナ ヴァンダル グルンドゥル ファロナーレイ
| bréun-a | vándar | grúnd-ul | faron-ár-ei |
| 積む-<(軽いものが)> | 商人<主格> | 掛け-<〜たちを> | 荷-<〜する人>-<与格> |
「商人は運び人に借りを積む。」
市や仕事の場面で、荷を扱う商人が運び人に債務負担を負わせる文。受け手 faronárei は faronár の与格。主語 vándar は人・軽性なので動詞も軽性の bréuna。比喩用法では、grúndo の「掛け・借り」を重さのある負担として積み重ねる。
負い目
人に負っている恩義や借り。
na véilim grúndo, séulin.
読み:ナ ヴェーリン グルンド、セウリン。
| na | véil-im | grúndo, | séulin. |
| <〜ない> | 忘れる-<私が> | 負い目<対格> | 友 |
「その恩義は忘れないよ、友よ。」
同じ段の親しい相手への言い方。呼格は日常では使わないので、呼びかけの名詞を文の終わりに読点で区切って添える。grúndo は金銭の掛けだけでなく、人に負っている恩義も指す。
gróm grúndo, fláin selvá.
読み:グローン グルンド、フライン セルヴァー。
| gróm | grúndo, | fláin | selvá. |
| 重い | 負い目<主格> | 軽い | 息<主格> |
「重きは負い目、軽きは息。」
諺。繋辞を落とし、述語の形容詞を先に置いているので、格言だとわかる。負い目は人を「重く」して下へ引くものとされる。形容詞は主語に一致するが、どちらも単数の主格なので語尾はつかない。
まだ精算していない代価、つまり借りや掛け。縁の市では乾風期の後半に前半の掛けを精算し、霧が来る前にかならず済ませる。借りを重荷とみる発想から、恩義や負い目の意味にも広がる。
重性・o語幹(④型)。属 grúndos、複 grúndul。
gróm「重い」と同源とされる。借りを「重いもの」とみる見方による。
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