書記が証文を書く――動詞・主語・目的語

この課では、「誰が何をする」という文を作れるようになります。高原語の文では、まず動詞(何をするか)が来て、その次に主語(誰が)、最後に目的語(何を)が来ます。日本語の「書記が証文を書く」は、高原語では「書く・書記が・証文を」の順になります。

あわせて、「〜を」にあたる形の作り方を学びます。軽性の名詞は語尾 -an をつけて「〜を」の形にします。重性の名詞は「〜が」と「〜を」が同じ形なので、語の順番が意味を決める手がかりになります。

場面は、崖の麓に立つ縁の市です。この土地では、取引の約束は口で交わすだけでは足りず、証文に書いて残します。書記が証文を書き、目付が荷を量って帳簿を確かめ、森で伐られた硬木が市へ運ばれてきます。この課の新しい語は、そうした市の仕事を表す動詞と、それをする人の呼び名です。第1課で習った plána「帳簿」も、ここでたくさん使います。

新出語

lís-[ˈlis]書く「書く」。動詞の語根なので、後ろに必ず語尾がつきます(`lísa`「(彼・彼女が)書く」、`lísim`「私が書く」)。
sén-[ˈsen]見る「見る」。「確かめる・検める」の意味でもよく使います。`séna`「(彼・彼女が)見る」。
kél-[ˈkel]伐る「伐る」。木を伐り倒すときに使います。`kéla`「(彼・彼女が)伐る」。
vánd-[ˈvand]量る「量る」。秤で重さを量るときに使います。日本語話者には「バンド」と聞こえやすい語です。`vánda`「(彼・彼女が)量る」。
lisár[liˈsar]書記「書記」。`lís-`「書く」から作った語で、「書く人」という意味です。軽性。「〜を」の形は `lisáran`。
senár[seˈnar]目付「目付」。`sén-`「見る」から作った「見張る人」。市で秤を預かり、揉め事を裁く役人です。軽性。「〜を」の形は `senáran`。
sáindar[ˈsaindar]証文「証文」。紙に書かれたものなので軽性です。「〜を」の形は `sáindaran`。強勢はいつも最初の sái にあります。

1. 語順は「動詞・主語・目的語」

規則:高原語の文は、**動詞 → 主語(誰が) → 目的語(何を)**の順に並べます。

動詞 主語 目的語
高原語 lísa lisár sáindaran.
逐語訳 書く 書記が 証文を
日本語 書記が証文を書く。

もう一つ例を見ましょう。

注意:第1課で習ったとおり、高原語では動詞が文の頭に来ます。動詞を聞き逃すと、文の中身がつかめません。日本語では「〜を」のあとに最後に動詞が来ますが、高原語ではいちばん初めに来る、と覚えてください。

2. 動詞の語尾は主語に合わせる

規則:動詞の語尾は、主語に合わせて変わります。第1課の þélim「私は名乗る」、第2課の ésa/éso を思い出してください。この課の動詞も同じ語尾をとります。

主語 語尾 例
私が -im lísim「私が書く」
彼・彼女・軽いものが -a lísa「(書記が)書く」
重いものが -o dúlo「(硬木が)下る」

人は軽性なので、lisár・senár・éndra「人」が主語のときは、動詞は -a で終わります。

注意:主語が「私」のときは、動詞の語尾 -im で「私が」とわかるので、ném「私」は言わないのがふつうです。

lisár「書記」と senár「目付」は、どちらも動詞の語根に -ár「〜する人」がついた語です。lís-→lisár、sén-→senár と並べると覚えやすくなります。ただし、強勢の位置が動く(lísa と lisár)ことに気をつけてください。

3. 軽性名詞の「〜を」は -an

規則:軽性の名詞を目的語(「〜を」)にするときは、語尾 -an をつけます。a で終わる名詞は、最後の -a を -an に変えます。

「〜が」の形 「〜を」の形 意味
sáindar sáindaran 証文
plána plánan 帳簿
virá virán 言葉
lisár lisáran 書記
senár senáran 目付
sélvan sélvanan セルヴァン(人名)

例:

二つの文は同じ語でできていますが、-an がついているほうが「見られる人」です。

注意:

4. 重性名詞は「〜が」と「〜を」が同じ形

規則:重性の名詞は、主語でも目的語でも形が変わりません。

名詞 「〜が」 「〜を」
硬木 gandér gandér
荷 fáron fáron
塩 sáko sáko
雑穀 tambór tambór

例:

どちらの文でも gandér は同じ形です。それでも意味を取り違えないのは、語の順番があるからです。

位置 役割
動詞のすぐ後ろ 主語(〜が)
その次 目的語(〜を)

注意:重性名詞の文を読むときは、語尾ではなく位置で役割を判断します。もう一つの手がかりは動詞の語尾です。kéla の -a は軽い主語(人など)を示すので、主語は重性の gandér ではなく軽性の éndra だとわかります。

5. 「この」「あの」は目的語の後ろに

規則:第2課で習った指示詞(sé・só・tó など)は、目的語の場合も名詞の後ろに置きます。指示詞そのものの形は変わりません。

主語のとき 目的語のとき
plána sé「この帳簿が」 plánan sé「この帳簿を」
fáron só「この荷が」 fáron só「この荷を」

例:

注意:語尾が変わるのは名詞だけです。sé は軽性、só は重性の名詞につけます。

例文

lísa lisár sáindaran.

読み:リーサ リサール サインダラン。

lís-alisársáindar-an.
書く-<(軽いものが)>書記<主格>証文-<対格>

「書記が証文を書く。」

この課の基本の文。動詞・主語・目的語の順。

séna senár plánan.

読み:セーナ セナール プラーナン。

sén-asenárplán-an.
見る-<(軽いものが)>目付<主格>帳簿-<対格>

「目付が帳簿を見る(検める)。」

plána は a で終わる軽性名詞なので、-a が -an に変わる。

kéla éndra gandér.

読み:ケーラ エンドラ ガンデール。

kél-aéndragandér.
伐る-<(軽いものが)>人<主格>硬木<対格>

「人が硬木を伐る。」

gandér は重性なので「〜を」でも形が変わらない。動詞の次が主語、その次が目的語。

vánda senár fáron.

読み:ヴァンダ セナール ファーロン。

vánd-asenárfáron.
量る-<(軽いものが)>目付<主格>荷<対格>

「目付が荷を量る。」

fáron も重性で、主語と目的語が同じ形。

séna lisár senáran.

読み:セーナ リサール セナーラン。

sén-alisársenár-an.
見る-<(軽いものが)>書記<主格>目付-<対格>

「書記が目付を見る。」

senáran の -an で、目付が「見られる側」だとわかる。séna senár lisáran なら「目付が書記を見る」。

lísa lisár virán.

読み:リーサ リサール ヴィラーン。

lís-alisárvir-án.
書く-<(軽いものが)>書記<主格>言葉-<対格>

「書記が言葉を書きつける。」

virá は語尾に強勢があるので、virán も語尾に強勢がある。

vánda senár sáko.

読み:ヴァンダ セナール サーコ。

vánd-asenársáko.
量る-<(軽いものが)>目付<主格>塩<対格>

「目付が塩を量る。」

sáko「塩」は干潟から来る重性名詞。o で終わっていても「〜を」で形は変わらない。

lísim sáindaran sé.

読み:リーシン サインダラン セー。

lís-imsáindar-ansé.
書く-<私が>証文-<対格>この<軽性>

「私はこの証文を書く。」

動詞の語尾 -im で「私が」とわかるので、主語は言わない。指示詞 sé は目的語の名詞の後ろ。

pá vánda fáron só?

読み:パー ヴァンダ ファーロン ソー?

pávánd-afáronsó?
誰<主格>量る-<(軽いものが)>荷<対格>この<重性>

「この荷は誰が量るのか。」

疑問詞 pá「誰」は動詞の前に出る。答えは vánda senár fáron só.「目付がこの荷を量る」。

練習問題

  1. 次の日本語を高原語にしてください。

    1. 書記が帳簿を書く。
    2. 人が硬木を伐る。
    3. 私は証文を見る。
    解答
    1. lísa lisár plánan.
    2. kéla éndra gandér.
    3. sénim sáindaran.

    解説:どれも動詞が先頭です。1の plána は軽性なので plánan に、2の gandér は重性なので形が変わりません。3は動詞の語尾 -im が「私が」を表すので、ném は言いません。

  2. ( )に入る正しい形を書いてください。

    1. séna senár (sáindar).「目付が証文を見る」
    2. vánda senár (fáron).「目付が荷を量る」
    3. lísa lisár (virá).「書記が言葉を書く」
    4. séna éndra (lisár).「人が書記を見る」
    解答
    1. sáindaran
    2. fáron(重性なので形は変わりません)
    3. virán
    4. lisáran

    解説:軽性名詞は「〜を」で -an をつけ(a で終わる語は -a を -an に)、重性名詞はそのままです。

  3. 次の二つの文を日本語にし、意味の違いを説明してください。

    1. séna lisár senáran.
    2. séna senár lisáran.
    解答
    1. 書記が目付を見る。
    2. 目付が書記を見る。

    解説:-an がついているほうが「〜を」(見られる人)です。また、動詞のすぐ後ろが主語です。1では lisár が、2では senár が主語になっています。

  4. 次の語を並べ替えて、「目付が雑穀を量る」という文にしてください。

    tambór/senár/vánda

    解答

    vánda senár tambór.

    解説:tambór「雑穀」は重性なので、主語でも目的語でも同じ形です。どちらが主語かは順番で決まります。もし vánda tambór senár と並べると、「雑穀が目付を量る」という変な文になってしまいます。

  5. 発音の問題です。次の語の強勢(´)はどの音節にありますか。また、日本語話者にはどう聞こえやすいでしょうか。

    1. vánda
    2. virán
    3. lisár と lísa
    解答
    1. 最初の vá。v はバ行に聞こえやすく、「バンダ」と聞こえます。唇を軽くかんで「ヴァ」と言いましょう。
    2. 最後の rán。virá の強勢が語尾にあるので、-an をつけても語尾に強勢が残ります。「ビラーン」と聞こえやすい語です。
    3. lisár は sár に、lísa は lí に強勢があります。同じ語根 lís- から来ていますが、強勢の位置が違うので、「リサール」(書記)と「リーサ」(書く)のように聞こえます。
  6. 次の文を日本語にしてください。

    pá séna plánan sé?

    解答

    「誰がこの帳簿を見るのか」

    解説:疑問詞 pá「誰」は動詞の前に出ます。plánan は plána の「〜を」の形で、sé「この」は名詞の後ろに置かれています。

コラム:書かれたものが重い国――口約束より証文

高原語が話されている土地では、書かれた言葉がいちばん確かなものとされています。法も裁きも文字で書かれたものにもとづき、商いの約束も、口で交わしただけでは十分ではありません。約束は sáindar「証文」に書き、取引は plána「帳簿」に一行ずつ書きこみます。崖の麓の縁の市でも、干潟の商人たちは高原の文字で帳簿をつけます。

市には、道の司から遣わされた目付(senár)がいます。目付は秤と青銅の分銅を預かり、荷を量り、証文に印を押し、揉め事が起これば裁きます。言い争いになると、市の人々は「秤に問え」と言い合います。口で言い張るのをやめ、目付の秤と書きつけで決めよう、という意味です。

数を書くときも念が入っています。帳簿や荷札では、数字で書いた数のすぐ後ろに、「十を十度、それを十度」のような言葉での言い換えを添えます。こうしておけば、あとで数字を書き換えることができません。高原の「千」と干潟の「千」の数え方が違うため、証文の書き方がとくに大切にされてきました。

この土地の信仰では、言葉は息であり、軽く、上へ昇っていくものです。口にした言葉は消えてしまいますが、文字は昇っていく言葉を紙に留めておけます。だから書かれた言葉が重んじられるのです。また、書くことは息を使わないので、口に出してはいけない名前でも書き留めることができます。

文法にもこの考えが表れています。sáindar「証文」も plána「帳簿」も、紙でできていて言葉を載せているので、軽性の名詞です。重んじられてはいても、文法の上では「重い」ものではありません。また、乾風期が終わり、崖の下から霧が這い上がってくる霧期に結んだ約束は「霧の約束」と呼ばれ、軽く見られます。そのため、精算はかならず「霧の前に」済ませます。この言い方は、「期限までに」という意味の決まり文句にもなっています。

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