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第3課では、動詞の語尾が主語の性(軽性か重性か)に合わせて -a と -o に変わることを学びました。この課では、主語が「私」「あなた」「私たち」「あなたがた」「彼ら」のときに、動詞の語尾がどう変わるかを学びます。
高原語の動詞の語尾には、「誰がするのか」という情報が入っています。そのため、話し手はふつう「私は」「あなたは」を言いません。lísim と言うだけで「私が書く」の意味になります。
最後に、「〜しない」という否定の言い方を覚えます。否定は、動詞の前に小さな語 na を一つ置くだけでできます。
この言語が話されている高原の市では、帳簿を前にして「私は書く」「あなたは量る」「彼らは来ない」といった短いやりとりが一日じゅう交わされています。この課を終えると、そういう言葉の骨組みを聞き取れるようになります。
この課の目標
na を使って「〜しない」と言える| ném | [ˈnem] | 私 | 「私」。動詞の語尾で「私が」とわかるので、ふつうは言いません。言うのは「ほかでもない私が」と強めるときです。 |
| tás | [ˈtas] | お前 | 「お前・あなた」。目下の人か、同じ段の人にだけ使います。目上の人には使いません(コラムを参照)。 |
| él | [ˈel] | 彼 | 「彼・彼女」。人や、軽性のもの(「それ」)を指します。 |
| ó | [ˈo] | それ(重) | 「それ」。重性のもの(硬木・荷・霧など)を指します。人を ó で指すのはひどい侮辱です。 |
| némor | [ˈnemor] | 我々 | 「私たち」。ném に -or がついた形です。聞き手を含むかどうかは区別しません。 |
| társ | [ˈtars] | お前たち | 「お前たち・あなたがた」。tás と同じく、目上の人には使いません。 |
| tór- | [ˈtor] | 来る | 「来る」。tórim 私が来る、tóra/tóro 彼が/それが来る。 |
| mán- | [ˈman] | 食べる | 「食べる」。目的語をとります(mánim tambór 私は雑穀を食べる)。 |
| vír- | [ˈvir] | 言う | 「言う」。目的語をとります(vírim virán 私は言葉を言う)。 |
| áur- | [ˈaur] | 昇る | 既に習った語です。この課では、すべての人称の形で練習します。 |
| dúl- | [ˈdul] | 下る | 既に習った語です。この課では、すべての人称の形で練習します。 |
| na | [na] | 〜ない | 「〜ない」。動詞の直前に置きます。強勢がないので、次の動詞と続けて「ナ・リシム」のように軽く言います。 |
規則:動詞は、語根(lís-「書く」のように、ハイフンのついた部分)に、主語を表す語尾をつけて使います。
| 主語 | 語尾 | lís- 書く |
tór- 来る |
mán- 食べる |
|---|---|---|---|---|
| 私が | -im |
lísim |
tórim |
mánim |
| あなたが | -es |
líses |
tóres |
mánes |
| 彼が・それが(軽性) | -a |
lísa |
tóra |
mána |
| それが(重性) | -o |
líso |
tóro |
máno |
| 私たちが | -imor |
lísimor |
tórimor |
mánimor |
| あなたがたが | -ers |
lísers |
tórers |
máners |
| 彼らが・それらが | -an |
lísan |
tóran |
mánan |
例
lísim sáindaran.「私は証文を書く」mánimor tambór.「私たちは雑穀を食べる」vánders fáron só.「あなたがたはこの荷を量る」注意点
lísim、lísimor、lísers は、どれも「リ」を強く言います)。-imor は「-im(私)+-or(たち)」と覚えると楽です。代名詞の ném→némor と同じ作りです。lísau)もありますが、これは後の課で学びます。規則:表の中で、性によって形が分かれるのは「彼が・それが」(3人称単数)だけです。主語が軽性なら -a、重性なら -o になります。複数の -an は、軽性でも重性でも同じ形です。
| 主語 | 性 | 動詞 |
|---|---|---|
aurá 縁鷲 |
軽性 | áura 昇る |
viréla ヴィレラ(人) |
軽性 | tóra 来る |
gandér 硬木 |
重性 | dúlo 下る |
nébro 霧 |
重性 | tóro 来る |
例
dúlo gandér, áura aurá.「硬木は下り、縁鷲は昇る」na tóro nébro.「霧は来ない」注意点
-a で受けます。él、重性の「それ」は ó です。重性の代名詞 ó と、動詞の重性の語尾 -o は、同じところから生まれた形だと考えられています。規則:動詞の語尾で誰のことかわかるので、主語の代名詞はふつう言いません。
| 代名詞 | 意味 | 動詞の語尾 |
|---|---|---|
ném |
私 | -im |
tás |
お前・あなた | -es |
él |
彼・彼女・それ(軽性) | -a |
ó |
それ(重性) | -o |
némor |
私たち | -imor |
társ |
お前たち・あなたがた | -ers |
(参考:「彼ら」は軽性なら élai、重性なら óul です。どちらも動詞は -an で受けます。)
例
líses plánan sé.「あなたはこの帳簿を書く」(tás を言わない)lísim ném plánan sé.「この帳簿は、ほかでもない私が書く」注意点
ném をつけて話すと、自分のことばかり強く言い張っているように聞こえます。日本語の「私は」を訳すつもりで、毎回 ném を入れないようにしましょう。規則:「〜しない」と言うときは、動詞の直前に na を置きます。そのほかの語順は変わりません。
| 肯定 | 否定 |
|---|---|
lísim. 私は書く |
na lísim. 私は書かない |
tóra sílan. シランが来る |
na tóra sílan. シランは来ない |
mánan sáko. 彼らは塩を食べる |
na mánan sáko. 彼らは塩を食べない |
時制の形はない:高原語の動詞には「過去」や「現在」を表す形がありません。そのため na lísim は、「書かない」とも「書かなかった」とも訳せます。どちらの意味かは、場面や前後の話で決まります。
tóra viréla, na tóra sílan.「ヴィレラは来たが、シランは来なかった」/「ヴィレラは来るが、シランは来ない」注意点
na には強勢がありません。次の動詞と一続きに「ナ・リーシム」のように発音します。na ではなく別の語 mé を使います。これは命令の形と一緒に、後の課で学びます。lísim sáindaran.
読み:リーシン サインダラン。
| lís-im | sáindar-an. |
| 書く-<私が> | 証文-<対格> |
「私は証文を書く。」
主語の ném は言わない。語尾の -im で「私が」とわかる。
líses plánan sé.
読み:リーセス プラーナン セー。
| lís-es | plán-an | sé. |
| 書く-<あなたが> | 帳簿-<対格> | この<軽性> |
「あなたはこの帳簿を書く。」
-es は「あなたが」。tás を言わなくても主語がわかる。目上の人に向かっては使えない言い方。
tóra viréla, na tóra sílan.
読み:トーラ ヴィレーラ、ナ トーラ シーラン。
| tór-a | viréla, | na | tór-a | sílan. |
| 来る-<(軽いものが)> | ヴィレラ<主格> | <〜ない> | 来る-<(軽いものが)> | シラン<主格> |
「ヴィレラは来たが、シランは来なかった。」
時制の形がないので、「来るが、来ない」とも訳せる。人の名前は軽性なので、動詞は -a で受ける。
dúlo gandér, áura aurá.
読み:ドゥーロ ガンデール、アウラ アウラー。
| dúl-o | gandér, | áur-a | aurá. |
| 下る-<(重いものが)> | 硬木<主格> | 昇る-<(軽いものが)> | 縁鷲<主格> |
「硬木は下り、縁鷲は昇る。」
重性の硬木は -o、軽性の縁鷲は -a。3人称単数だけが性で分かれる。
mánimor tambór.
読み:マーニモル タンボール。
| mán-imor | tambór. |
| 食べる-<我々が> | 雑穀<対格> |
「私たちは雑穀を食べる。」
-imor は「私たちが」。tambór は重性なので、「〜を」でも形が変わらない。
na mánan sáko.
読み:ナ マーナン サーコ。
| na | mán-an | sáko. |
| <〜ない> | 食べる-<彼らが> | 塩<対格> |
「彼らは塩を食べない。」
na を動詞の直前に置く。高原では塩はたいへんな贅沢品で、ふだんの食事にはほとんど使わない。
vánders fáron só.
読み:ヴァンデルス ファーロン ソー。
| vánd-ers | fáron | só. |
| 量る-<あなたがたが> | 荷<対格> | この<重性> |
「あなたがたはこの荷を量る。」
-ers は「あなたがたが」。荷は重性なので、指示詞も重性の só。
na vírim virán sé.
読み:ナ ヴィーリン ヴィラーン セー。
| na | vír-im | vir-án | sé. |
| <〜ない> | 言う-<私が> | 言葉-<対格> | この<軽性> |
「私はこの言葉を口にしない。」
「口にしなかった」とも訳せる。vír-「言う」と virá「言葉」は同じ語根から。
lísim ném plánan sé.
読み:リーシン ネーン プラーナン セー。
| lís-im | ném | plán-an | sé. |
| 書く-<私が> | <私> | 帳簿-<対格> | この<軽性> |
「この帳簿は、ほかでもない私が書く。」
語尾で主語がわかるのに ném をわざわざ言っているので、強調になる。代名詞は動詞のすぐ後ろの主語の位置に置く。
na tóro nébro.
読み:ナ トーロ ネーブロ。
| na | tór-o | nébro. |
| <〜ない> | 来る-<(重いものが)> | 霧<主格> |
「霧は来ない。」
霧は重性なので -o。この土地では、霧は崖の下から這い上がってくる「下の国の息」とされる。
tór-「来る」の形を、表の空欄に入れましょう。
| 主語 | 形 |
|---|---|
| 私が | (1) |
| あなたが | (2) |
| 霧が(重性) | (3) |
| 私たちが | (4) |
| あなたがたが | (5) |
| 彼らが | (6) |
(1) tórim (2) tóres (3) tóro (4) tórimor (5) tórers (6) tóran
語尾に強勢はないので、どの形でも「トー」を強く言います。(3) は主語が重性なので -o になります。
空欄に -a か -o を入れて、文を完成させましょう。
dúl__ gandér.「硬木が下りる」áur__ selvá.「息が昇る」tór__ silára.「シラーラが来る」na tór__ nébro.「霧は来ない」dúlo(硬木は重性)áura(息は軽性)tóra(人はいつも軽性)tóro(霧は重性)3人称単数だけは、主語の性で語尾が分かれます。
次の日本語を高原語にしましょう。主語の代名詞は言わずに書いてください。
na vándimor fáron só.(荷は重性なので「この」は só)mánes tambór.na lísan sáindaran.3は「書かない」と同じ形です。高原語には時制の形がないので、「〜しなかった」も na だけで言えます。
次の高原語を日本語にしましょう。
lísers plánan sé.na vírim virán.lísim ném sáindaran.3は、語尾 -im で「私が」とわかるのに ném をわざわざ言っているので、強調の意味になります。
発音の問題です。日本語話者の耳には、語末の m と n はどちらも「ン」に聞こえます。
「マニン」と聞こえた語と、「マナン」と聞こえた語があります。それぞれ mánim「私が食べる」と mánan「彼らが食べる」のどちらでしょうか。また、二つを聞き分けるには、どこに注意すればよいでしょうか。
「マニン」が mánim(私が食べる)、「マナン」が mánan(彼らが食べる)です。
語末の m と n の違いは、日本語話者には聞き取れません。かわりに、最後の「ン」の前の母音を聞きます。-im(私)なら「イ」、-an(彼ら)なら「ア」です。同じように、lísim「リシン」と lísan「リサン」も、母音の違いで聞き分けられます。
この課で学んだ tás「お前」と、動詞の語尾 -es「あなたが」は、実は誰にでも使える形ではありません。高原語の話される土地では、敬意はすべて「高さ」で表されます。そして、目上の人に面と向かって「あなたは〜する」と言うのは、大きな無礼とされています。
目上の人は「3人称」で呼ぶ
目上の人と話すときは、相手を「あなた」と呼びません。目の前にいる相手でも、「書記の方は」「目付殿は」のように、役職などを使って3人称で言います。そのため、動詞の語尾も -es ではなく、3人称の -a になります。文法の上では、相手を「ここにいない、少し高いところにいる人」として扱うわけです。さらに、命令のかわりに願いの形を使い、相手を高める特別な語形を添えます。これらは後の課で学びます。
なぜ2人称を避けるのか この土地の人々は、星を指さしたり数えたりすることを避けます。星は祖先の炉の火で、指を突きつけるのは失礼だと考えるからです。目上の人を「お前」と呼ぶのも、これとよく似た感覚です。言葉で相手をまっすぐ指すことは、相手の位置を自分と同じ高さまで引き下ろすことになります。目上の人の名前を口にしないのも、同じ理屈によるものです。
では、誰になら使えるのか
tás と -es が自然に使えるのは、身分の段が同じ相手か、自分より下の相手です。仲間どうし、家族の中、年上の人が年下の人に話すとき、目付が運び人に話すときなどがそうです。
王の場合は逆向き いちばん上にいる王は、自分のことを「私」とも言いません。「この座」と3人称で言います。高原語では、高い人ほど「私」「あなた」という言葉から遠ざかるのです。
段のわからない相手には
崖の下から来た商人や旅人のように、身分の段がわからない相手もいます。そういう相手に対しては、高原の人の話し方は揺れます。自分のほうが上だと思っている人は、命令の形を言いかけて、もう少し丁寧な願いの形に言い直します。自分が下か同じくらいだと思っている人は、「お前」と3人称の呼び方のあいだを行き来します。旅の途中で、命令と願い、あるいは -es と3人称の語尾が入りまじって聞こえたら、相手があなたをどの高さに置こうか迷っているしるしかもしれません。
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