小説
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もう
事柄がすでに起こった、または終わっていることを表す。完了相の動詞と組むことが多い。
léisa dóulin lisár plánan.
読み:レーサ ドーリン リサール プラーナン。
| léis-a | dóulin | lis-ár | plán-an. |
| 書く<〜し終えた>-<(軽いものが)> | もう | 書く-<〜する人> | 帳簿-<対格> |
「書記はもう帳簿を書き終えた。」
「もう」dóulin も動詞の直後、主語の前に置く。完了の語根と組むことが多い。
na gélim dóulin du orén.
読み:ナ ゲーリン ドーリン ドゥ オレーン。
| na | gél-im | dóulin | du | orén. |
| <〜ない> | 行く-<私が> | もう | 下手 | 縁<対格> |
「私はもう縁へは行かない。」
否定+dóulin で「もう〜しない」。
na lísim dóulin sáindarais.
読み:ナ リーシン ドーリン サインダライス。
| na | lís-im | dóulin | sáindar-ais. |
| <〜ない> | 書く-<私が> | もう | 証文-<〜たちを> |
「もう証文は書かない。」
否定+ふつうの形+dóulin で「もう〜しない」。
mé níl dóulin muró, murár!
読み:メー ニール ドーリン ムロー、ムラール!
| mé | níl | dóulin | muró, | mur-ár! |
| <禁止・願いの打ち消し> | 飲む<命令法><あなたが> | もう | 濁り酒<対格> | 濁った-<〜する人> |
「もう濁り酒は飲むな、この酔っぱらいめ!」
縁や崖道の炉ばたで、家の者が酔った身内をたしなめる言い方。相の副詞 dóulin「もう」は動詞のすぐ後ろに置き、否定と組んで「もう〜しない」の意味になる。muró と murár を並べた語呂合わせが面白がられ、決まり文句のようにも使われる。都の改まった言葉では、この当てこすりの使い方はしない。
krailsáilim dóulin snélan.
読み:クライルサイリン ドーリン スネーラン。
| krailsáil-im | dóulin | snél-an. |
| 丁寧に畳む<〜し終えた>-<私が> | もう | 布-<対格> |
「私はもう布を丁寧に畳み終えた。」
肯定文で dóulin「もう」を使う場合、対応する動詞は完了相になる(例:léisa dóulin…)。krailsál- の完了相は母音交替 krailsál- → krailsáil- で、krailsáilim のようになる。直説法1人称単数の語尾 -im が主語を示し、主語代名詞は省く。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置かれ、主語を省いた文では目的語の前に来る。
houmþálo dóulin némei.
読み:ホウンサーロ ドーリン ネーメイ。
| houmþál-o | dóulin | ném-ei. |
| 炉が冷える-<(重いものが)> | もう | 私-<与格> |
「炉が冷えました(=私はもう腹が空きました)。」
食事を始める頃に使える定型。houmþál- は houm「炉」+þál-「止まる」の複合動詞として一語で受け、炉が止まって食事の支度が整った/腹が空いた合図を表す。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。
ilméra dóulin píma.
読み:イルメーラ ドーリン ピーマ。
| ilmér-a | dóulin | píma. |
| 濡れる-<(軽いものが)> | もう | 紙<主格> |
「紙はもう水を含んで傷んでいる。」
書物・記録の場面。dóulin「もう」を動詞の直後に置くことで、紙がすでに水を含み、元の状態へは戻りにくくなっていることを示す。紙のような吸い込みやすい対象について、 ilmér- は「濡れた」より「水傷みした」含みを強める。
tendéra dóulin ambrél endríñan.
読み:テンデーラ ドーリン アンブレール エンドリーニャン。
| tendér-a | dóulin | ambrél | endríñ-an. |
| 寝かしつける-<(軽いものが)> | もう | 兄・姉<主格> | 子-<対格> |
「兄姉はもう子どもを寝かしつけた。」
寝かしつける意味ではdóulin「もう」を添えて完了に近づける。相の副詞は動詞の直後、主語の前に置く。
kánþa dóulin houmár tambór.
読み:カンサ ドーリン ホウマール タンボール。
| kánþ-a | dóulin | houmár | tambór. |
| 立っている穀物を刈る-<(軽いものが)> | もう | 家の主<主格> | 雑穀<対格> |
「家の主はもう雑穀を刈った。」
帳簿的な記録に近い言い方。相を表す語尾はないが、副詞 dóulin が「もう」を表し、干し上げ・脱穀へ送る前の収穫作業が済んだことを示す。
kranérau dóulin kranó si sóila.
読み:クラネーラウ ドーリン クラノー シ ソイラ。
| kranér-au | dóulin | kranó | si | sóila. |
| 伸びる-<双数> | もう | 爪<主格> | と | 髪<主格> |
「爪も髪ももう伸びている。」
単数の二語を si で並べるので動詞は双数になる。相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置く。
káulo dóulin kórvo.
読み:カウロ ドーリン コルヴォ。
| kául-o | dóulin | kórvo. |
| 満ちる-<(重いものが)> | もう | 倉<主格> |
「倉はもう満ちている。」
帳簿や記録にありそうな文。dóulin は動詞直後に置かれる相の副詞。kórvo は重性o語幹。
krílo dóulin plondó orén.
読み:クリーロ ドーリン プロンドー オレーン。
| kríl-o | dóulin | plondó | orén. |
| 離す-<(重いものが)> | もう | 道を絶つ崩落<主格> | 縁<対格> |
「道を絶つ崩落は、もう崖縁を断った。」
年代記・報告のような書面的文。VSOで動詞の直後に相の副詞 dóulin を置く。kríl は他動詞、orén を対格で受ける。重性名詞のため対格は無標識。plondó は単なる落石ではなく、往来を断つ崩落を名指す。
anórel, kráiso dóulin tórvo mór.
読み:アノーレル、クライソ ドーリン トルヴォ モール。
| anórel, | kráis-o | dóulin | tórvo | mór |
| 昨日 | 割れる<〜し終えた>-<(重いものが)> | もう | 梁<主格> | 大きい<主格> |
「昨日、大きな梁がもう割れた。」
肯定の「もう」dóulin は完了相の動詞と組むため、割れる krás- の完了語根 kráis- を用いて kráiso とする。場面の枠 anórel を文頭に置き、相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置く。
na sénim dóulin funelór.
読み:ナ セーニン ドーリン フネロール。
| na | sén-im | dóulin | funelór. |
| <〜ない> | 見る-<私が> | もう | フネロール<対格> |
「私はもうフネロールが見えない。」
日常会話。相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置かれる。目的語 funelór は地名として重性子音語幹名詞として扱い、対格は主格と同形。見出しの標準外称 funelór を用いた。
hóinsa dóulin selvíña.
読み:ホインサ ドーリン セルヴィーニャ。
| hóins-a | dóulin | selvíña |
| 帰る<〜し終えた>-<(軽いものが)> | もう | セルヴィーニャ<主格> |
「セルヴィーニャはもう帰った。」
家庭の日常場面で、家族が娘の帰りを告げる文。幼名は家族や親しい者だけが使う。人を指す名詞なので、動詞は軽性の3人称単数 -a を受ける。肯定句で「もう」を表す dóulin は完了語根と組む決まりなので、未完了語根 hóin- ではなく完了語根 hóins- を使う。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置かれ、「時の流れがもう通り過ぎた」意を表す。時制は語形で示さず、文脈から過去として受け取る。
na lúndim dóulin.
読み:ナ ルンディン ドーリン。
| na | lúnd-im | dóulin |
| <〜ない> | 口ずさむ-<私が> | もう |
「もう口ずさんでいない。」
意味3は目的語を伴わない自動詞的にも使える。否定の na は動詞の直前に、相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。
wéiro dóulin nórlo éles véun, na hóina
読み:ウェーロ ドーリン ノルロ エーレス ヴェウン、ナ ホイナ
| wéir-o | dóulin | nórlo | él-es | véun, | na | hóin-a |
| いる<〜し終えた>-<(重いものが)> | もう | 寝所<主格> | <3人称単数・軽性>-<属格> | 空, | <〜ない> | 帰る-<(軽いものが)> |
「彼の寝所はもう空だ。彼は帰らない。」
日常の会話で、人の帰る場所・安らぎの場として nórlo を比喩的に用いる。後節の主語は動詞の軽性語尾から推定される。
dulráinim dóulin téir lóurul sórel
読み:ドゥルライニン ドーリン テール ロールル ソーレル
| dulráin-im | dóulin | téir | lóur-ul | sórel |
| 話に流される<〜し終えた>-<私が> | もう | 三 | 瀬-<〜たちを> | 今日 |
「今日はもう三瀬も話に流されてしまった。」
肯定の「もう」dóulin と組むため、完了相の語幹 dulráin- を用いる。主語は動詞語尾だけで示す。相の副詞 dóulin が動詞の直後に立ち、流れに取り残された感を添える。時語 sórel は文末に置く。
séima dóulin ólmar un nórloi.
読み:セーマ ドーリン オルマル ウン ノルロイ。
| séim-a | dóulin | ólmar | un | nórl-oi. |
| 身を横たえる-<(軽いものが)> | もう | 年長者<主格> | 中に | 寝床-<与格> |
「年長者はもう寝床についている。」
炉ばたの語りが済んだ後の家庭の描写。人語の主語に合わせて動詞は軽性三人称単数の語尾 -a をとる。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。un+与格は、寝床という落ち着く場所を示す。
kréuna dóulin nóra
読み:クレウナ ドーリン ノーラ
| kréun-a | dóulin | nóra |
| 更ける-<(軽いものが)> | もう | 夜<主格> |
「夜がもう更けている。」
日常用法の文。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置かれ、主語の前に現れる。時制のない文で、話者の場面で現在進行として理解される。夜 nóra は軽性なので、動詞は軽性の3人称単数語尾 -a をとる。
もう(〜している)
未完了の動詞と組み、ある状態がすでに始まっていることを表す。
éso dóulin sáko némei
読み:エーソ ドーリン サーコ ネーメイ
| és-o | dóulin | sáko | ném-ei |
| いる-<(重いものが)> | もう | 塩<主格> | <私>-<与格> |
「私にはもう塩がある。」
所有を「いる+持ち主の与格」で表す未完了の存在文。dóulin は動詞の直後、主語の前に置かれ、持ち物がある状態がすでに続いていることを表す。日常の台所や帳場でよく用いられる語調。
もはや(〜ない)
否定の na と組み、以前はそうだったことが、今はもうそうでないことを表す。取り返しがつかないという含みがある。
na éso dóulin fáron un kórvoi
読み:ナ エーソ ドーリン ファーロン ウン コルヴォイ
| na | és-o | dóulin | fáron | un | kórv-oi |
| <〜ない> | いる-<(重いものが)> | もはや | 荷<主格> | 内に | 倉-<与格> |
「倉の中にはもはや荷がない。」
na と dóulin が組む否定の存在文。na は動詞の前に置かれ、dóulin は「その事柄のところを時の流れが通り過ぎた」という取り返しのかからない含みを添える。un+与格 kórvoi で倉の中の場所を示す。帳場・倉の記録などで用いられる語調。
na éso dóulin múrno un méndalei
読み:ナ エーソ ドーリン ムルノ ウン メンダレイ
| na | és-o | dóulin | múrno | un | méndal-ei |
| <〜ない> | いる-<(重いものが)> | もはや | 腐り氷<主格> | 内に | 中-<与格> |
「腐り氷はもはやこの世にない。」
場所を特定しない不在文には un méndalei を添える。重性の自然名詞 múrno を主語に取り、na+未完了の存在文+dóulin で「かつてあったが今はもうない」を表す。季節の終わりや消失を告げる、やや書面語的な語調。
「すでに」「もう〜してしまった」を表す時の副詞。高原語では時間を源から流れ下る川と見て、早いことを上手(an)、遅いことを下手(du)で言う。dóulin はもともと「(流れが)下り終えて」という意味で、ある事柄のところを時の流れがもう通り過ぎ、下手へ下りてしまった、という見方から「すでに」の意味になった。完了相の動詞と組むことが多い。léisa dóulin lisár plánan.「書記はもう帳簿を書き終えた」のように、ふつうは動詞のすぐ後ろ、主語の前に置く。統語の規則で、動詞の前には否定・疑問の小辞、疑問詞、節を導く小辞、対比の語句しか出せないので、この語が文頭に来ることはない。未完了の動詞と組むと「もう〜している」という状態を表す(ésa dóulin nébro an orénoi.「縁の上手にもう霧が出ている」)。否定の na と組むと「もはや〜ない」になる(na éso dóulin tambór némei.「私にはもう雑穀がない」)。下った水は上へ戻らないという感覚から、取り返しがつかない、もう決まってしまった、という含みが強い。縁の市では、期限の決まり文句 an nébroi「霧の前に」と並べて、精算の時期を過ぎたことを言うのにもよく使う。宮廷の詩では、過ぎていく季節や年を詠むときの好まれる語である。目上の人の行いについて使ってもかまわないが、目上の人の思い違いを正すときに「もう済んでおります」と言い切ると角が立つ。そのため、動詞を推量法にしてやわらげる(dóulin はその推量法の動詞の直後に置く)。日本語話者には二重母音 ou が長母音に聞こえるので、「ドーリン」と聞こえる。
kráiso dóulin snaló.
読み:クライソ ドーリン スナロー。
| kráis-o | dóulin | snaló. |
| 割れる<〜し終えた>-<(重いものが)> | 既に | かさぶた<主格> |
「かさぶたはもう割れている。」
肯定文で dóulin と組んで完了の意味を表すときは、未完了語幹 krás- ではなく完了語幹 kráis- を使う。重性の主語 snaló に一致して、語尾に3単数重性 -o がつく。dóulin は動詞の直後に置く「もう」。「時制を表す語形がないため、変化の完了は完了語幹と相の副詞で示す」という手当て書・現場観察文らしい簡潔な描写。
副詞。格変化しない。強勢は語根の二重母音にあり、-in には強勢がない。ふつうは動詞の直後、主語の前に置く。否定の na は動詞の前に置き、dóulin は動詞の後ろのまま置く(na 動詞 dóulin …)。語末が子音なので、くだけた話し方の語末母音の脱落は起こらない。
dúl-「下る」の完了語幹 dóul-(u → ou の母音交替)に、副詞を作る -in(sérin「このように」、térin「そのように」、pórin「どのように」と同じもの)がついた形。字義は「下り終えて」。時を川の流れと見て、事柄のところを流れがもう通り過ぎたことを表す。動詞の副動詞 -in(léisin「書き終えて」)と同じ語尾で、dóulin はそれが副詞として固まったもの。
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