dóulin

品詞
副詞
意味
もう
発音
[ˈdoulin]
読み
ドーリン
分野
時間・空間・方向

意味

  1. もう

    事柄がすでに起こった、または終わっていることを表す。完了相の動詞と組むことが多い。

    léisa dóulin lisár plánan.

    読み:レーサ ドーリン リサール プラーナン。

    léis-adóulinlis-árplán-an.
    書く<〜し終えた>-<(軽いものが)>もう書く-<〜する人>帳簿-<対格>

    「書記はもう帳簿を書き終えた。」

    「もう」dóulin も動詞の直後、主語の前に置く。完了の語根と組むことが多い。

    na gélim dóulin du orén.

    読み:ナ ゲーリン ドーリン ドゥ オレーン。

    nagél-imdóulinduorén.
    <〜ない>行く-<私が>もう下手縁<対格>

    「私はもう縁へは行かない。」

    否定+dóulin で「もう〜しない」。

    na lísim dóulin sáindarais.

    読み:ナ リーシン ドーリン サインダライス。

    nalís-imdóulinsáindar-ais.
    <〜ない>書く-<私が>もう証文-<〜たちを>

    「もう証文は書かない。」

    否定+ふつうの形+dóulin で「もう〜しない」。

    mé níl dóulin muró, murár!

    読み:メー ニール ドーリン ムロー、ムラール!

    méníldóulinmuró,mur-ár!
    <禁止・願いの打ち消し>飲む<命令法><あなたが>もう濁り酒<対格>濁った-<〜する人>

    「もう濁り酒は飲むな、この酔っぱらいめ!」

    縁や崖道の炉ばたで、家の者が酔った身内をたしなめる言い方。相の副詞 dóulin「もう」は動詞のすぐ後ろに置き、否定と組んで「もう〜しない」の意味になる。muró と murár を並べた語呂合わせが面白がられ、決まり文句のようにも使われる。都の改まった言葉では、この当てこすりの使い方はしない。

    krailsáilim dóulin snélan.

    読み:クライルサイリン ドーリン スネーラン。

    krailsáil-imdóulinsnél-an.
    丁寧に畳む<〜し終えた>-<私が>もう布-<対格>

    「私はもう布を丁寧に畳み終えた。」

    肯定文で dóulin「もう」を使う場合、対応する動詞は完了相になる(例:léisa dóulin…)。krailsál- の完了相は母音交替 krailsál- → krailsáil- で、krailsáilim のようになる。直説法1人称単数の語尾 -im が主語を示し、主語代名詞は省く。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置かれ、主語を省いた文では目的語の前に来る。

    houmþálo dóulin némei.

    読み:ホウンサーロ ドーリン ネーメイ。

    houmþál-odóulinném-ei.
    炉が冷える-<(重いものが)>もう私-<与格>

    「炉が冷えました(=私はもう腹が空きました)。」

    食事を始める頃に使える定型。houmþál- は houm「炉」+þál-「止まる」の複合動詞として一語で受け、炉が止まって食事の支度が整った/腹が空いた合図を表す。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。

    ilméra dóulin píma.

    読み:イルメーラ ドーリン ピーマ。

    ilmér-adóulinpíma.
    濡れる-<(軽いものが)>もう紙<主格>

    「紙はもう水を含んで傷んでいる。」

    書物・記録の場面。dóulin「もう」を動詞の直後に置くことで、紙がすでに水を含み、元の状態へは戻りにくくなっていることを示す。紙のような吸い込みやすい対象について、 ilmér- は「濡れた」より「水傷みした」含みを強める。

    tendéra dóulin ambrél endríñan.

    読み:テンデーラ ドーリン アンブレール エンドリーニャン。

    tendér-adóulinambrélendríñ-an.
    寝かしつける-<(軽いものが)>もう兄・姉<主格>子-<対格>

    「兄姉はもう子どもを寝かしつけた。」

    寝かしつける意味ではdóulin「もう」を添えて完了に近づける。相の副詞は動詞の直後、主語の前に置く。

    kánþa dóulin houmár tambór.

    読み:カンサ ドーリン ホウマール タンボール。

    kánþ-adóulinhoumártambór.
    立っている穀物を刈る-<(軽いものが)>もう家の主<主格>雑穀<対格>

    「家の主はもう雑穀を刈った。」

    帳簿的な記録に近い言い方。相を表す語尾はないが、副詞 dóulin が「もう」を表し、干し上げ・脱穀へ送る前の収穫作業が済んだことを示す。

    kranérau dóulin kranó si sóila.

    読み:クラネーラウ ドーリン クラノー シ ソイラ。

    kranér-audóulinkranósisóila.
    伸びる-<双数>もう爪<主格>と髪<主格>

    「爪も髪ももう伸びている。」

    単数の二語を si で並べるので動詞は双数になる。相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置く。

    káulo dóulin kórvo.

    読み:カウロ ドーリン コルヴォ。

    kául-odóulinkórvo.
    満ちる-<(重いものが)>もう倉<主格>

    「倉はもう満ちている。」

    帳簿や記録にありそうな文。dóulin は動詞直後に置かれる相の副詞。kórvo は重性o語幹。

    krílo dóulin plondó orén.

    読み:クリーロ ドーリン プロンドー オレーン。

    kríl-odóulinplondóorén.
    離す-<(重いものが)>もう道を絶つ崩落<主格>縁<対格>

    「道を絶つ崩落は、もう崖縁を断った。」

    年代記・報告のような書面的文。VSOで動詞の直後に相の副詞 dóulin を置く。kríl は他動詞、orén を対格で受ける。重性名詞のため対格は無標識。plondó は単なる落石ではなく、往来を断つ崩落を名指す。

    anórel, kráiso dóulin tórvo mór.

    読み:アノーレル、クライソ ドーリン トルヴォ モール。

    anórel,kráis-odóulintórvomór
    昨日割れる<〜し終えた>-<(重いものが)>もう梁<主格>大きい<主格>

    「昨日、大きな梁がもう割れた。」

    肯定の「もう」dóulin は完了相の動詞と組むため、割れる krás- の完了語根 kráis- を用いて kráiso とする。場面の枠 anórel を文頭に置き、相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置く。

    na sénim dóulin funelór.

    読み:ナ セーニン ドーリン フネロール。

    nasén-imdóulinfunelór.
    <〜ない>見る-<私が>もうフネロール<対格>

    「私はもうフネロールが見えない。」

    日常会話。相の副詞 dóulin は動詞の直後、主語の前に置かれる。目的語 funelór は地名として重性子音語幹名詞として扱い、対格は主格と同形。見出しの標準外称 funelór を用いた。

    hóinsa dóulin selvíña.

    読み:ホインサ ドーリン セルヴィーニャ。

    hóins-adóulinselvíña
    帰る<〜し終えた>-<(軽いものが)>もうセルヴィーニャ<主格>

    「セルヴィーニャはもう帰った。」

    家庭の日常場面で、家族が娘の帰りを告げる文。幼名は家族や親しい者だけが使う。人を指す名詞なので、動詞は軽性の3人称単数 -a を受ける。肯定句で「もう」を表す dóulin は完了語根と組む決まりなので、未完了語根 hóin- ではなく完了語根 hóins- を使う。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置かれ、「時の流れがもう通り過ぎた」意を表す。時制は語形で示さず、文脈から過去として受け取る。

    na lúndim dóulin.

    読み:ナ ルンディン ドーリン。

    nalúnd-imdóulin
    <〜ない>口ずさむ-<私が>もう

    「もう口ずさんでいない。」

    意味3は目的語を伴わない自動詞的にも使える。否定の na は動詞の直前に、相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。

    wéiro dóulin nórlo éles véun, na hóina

    読み:ウェーロ ドーリン ノルロ エーレス ヴェウン、ナ ホイナ

    wéir-odóulinnórloél-esvéun,nahóin-a
    いる<〜し終えた>-<(重いものが)>もう寝所<主格><3人称単数・軽性>-<属格>空,<〜ない>帰る-<(軽いものが)>

    「彼の寝所はもう空だ。彼は帰らない。」

    日常の会話で、人の帰る場所・安らぎの場として nórlo を比喩的に用いる。後節の主語は動詞の軽性語尾から推定される。

    dulráinim dóulin téir lóurul sórel

    読み:ドゥルライニン ドーリン テール ロールル ソーレル

    dulráin-imdóulintéirlóur-ulsórel
    話に流される<〜し終えた>-<私が>もう三瀬-<〜たちを>今日

    「今日はもう三瀬も話に流されてしまった。」

    肯定の「もう」dóulin と組むため、完了相の語幹 dulráin- を用いる。主語は動詞語尾だけで示す。相の副詞 dóulin が動詞の直後に立ち、流れに取り残された感を添える。時語 sórel は文末に置く。

    séima dóulin ólmar un nórloi.

    読み:セーマ ドーリン オルマル ウン ノルロイ。

    séim-adóulinólmarunnórl-oi.
    身を横たえる-<(軽いものが)>もう年長者<主格>中に寝床-<与格>

    「年長者はもう寝床についている。」

    炉ばたの語りが済んだ後の家庭の描写。人語の主語に合わせて動詞は軽性三人称単数の語尾 -a をとる。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置く。un+与格は、寝床という落ち着く場所を示す。

    kréuna dóulin nóra

    読み:クレウナ ドーリン ノーラ

    kréun-adóulinnóra
    更ける-<(軽いものが)>もう夜<主格>

    「夜がもう更けている。」

    日常用法の文。相の副詞 dóulin は動詞の直後に置かれ、主語の前に現れる。時制のない文で、話者の場面で現在進行として理解される。夜 nóra は軽性なので、動詞は軽性の3人称単数語尾 -a をとる。

  2. もう(〜している)

    未完了の動詞と組み、ある状態がすでに始まっていることを表す。

    éso dóulin sáko némei

    読み:エーソ ドーリン サーコ ネーメイ

    és-odóulinsákoném-ei
    いる-<(重いものが)>もう塩<主格><私>-<与格>

    「私にはもう塩がある。」

    所有を「いる+持ち主の与格」で表す未完了の存在文。dóulin は動詞の直後、主語の前に置かれ、持ち物がある状態がすでに続いていることを表す。日常の台所や帳場でよく用いられる語調。

  3. もはや(〜ない)

    否定の na と組み、以前はそうだったことが、今はもうそうでないことを表す。取り返しがつかないという含みがある。

    na éso dóulin fáron un kórvoi

    読み:ナ エーソ ドーリン ファーロン ウン コルヴォイ

    naés-odóulinfáronunkórv-oi
    <〜ない>いる-<(重いものが)>もはや荷<主格>内に倉-<与格>

    「倉の中にはもはや荷がない。」

    na と dóulin が組む否定の存在文。na は動詞の前に置かれ、dóulin は「その事柄のところを時の流れが通り過ぎた」という取り返しのかからない含みを添える。un+与格 kórvoi で倉の中の場所を示す。帳場・倉の記録などで用いられる語調。

    na éso dóulin múrno un méndalei

    読み:ナ エーソ ドーリン ムルノ ウン メンダレイ

    naés-odóulinmúrnounméndal-ei
    <〜ない>いる-<(重いものが)>もはや腐り氷<主格>内に中-<与格>

    「腐り氷はもはやこの世にない。」

    場所を特定しない不在文には un méndalei を添える。重性の自然名詞 múrno を主語に取り、na+未完了の存在文+dóulin で「かつてあったが今はもうない」を表す。季節の終わりや消失を告げる、やや書面語的な語調。

解説

「すでに」「もう〜してしまった」を表す時の副詞。高原語では時間を源から流れ下る川と見て、早いことを上手(an)、遅いことを下手(du)で言う。dóulin はもともと「(流れが)下り終えて」という意味で、ある事柄のところを時の流れがもう通り過ぎ、下手へ下りてしまった、という見方から「すでに」の意味になった。完了相の動詞と組むことが多い。léisa dóulin lisár plánan.「書記はもう帳簿を書き終えた」のように、ふつうは動詞のすぐ後ろ、主語の前に置く。統語の規則で、動詞の前には否定・疑問の小辞、疑問詞、節を導く小辞、対比の語句しか出せないので、この語が文頭に来ることはない。未完了の動詞と組むと「もう〜している」という状態を表す(ésa dóulin nébro an orénoi.「縁の上手にもう霧が出ている」)。否定の na と組むと「もはや〜ない」になる(na éso dóulin tambór némei.「私にはもう雑穀がない」)。下った水は上へ戻らないという感覚から、取り返しがつかない、もう決まってしまった、という含みが強い。縁の市では、期限の決まり文句 an nébroi「霧の前に」と並べて、精算の時期を過ぎたことを言うのにもよく使う。宮廷の詩では、過ぎていく季節や年を詠むときの好まれる語である。目上の人の行いについて使ってもかまわないが、目上の人の思い違いを正すときに「もう済んでおります」と言い切ると角が立つ。そのため、動詞を推量法にしてやわらげる(dóulin はその推量法の動詞の直後に置く)。日本語話者には二重母音 ou が長母音に聞こえるので、「ドーリン」と聞こえる。

そのほかの用例

kráiso dóulin snaló.

読み:クライソ ドーリン スナロー。

kráis-odóulinsnaló.
割れる<〜し終えた>-<(重いものが)>既にかさぶた<主格>

「かさぶたはもう割れている。」

肯定文で dóulin と組んで完了の意味を表すときは、未完了語幹 krás- ではなく完了語幹 kráis- を使う。重性の主語 snaló に一致して、語尾に3単数重性 -o がつく。dóulin は動詞の直後に置く「もう」。「時制を表す語形がないため、変化の完了は完了語幹と相の副詞で示す」という手当て書・現場観察文らしい簡潔な描写。

文法

副詞。格変化しない。強勢は語根の二重母音にあり、-in には強勢がない。ふつうは動詞の直後、主語の前に置く。否定の na は動詞の前に置き、dóulin は動詞の後ろのまま置く(na 動詞 dóulin …)。語末が子音なので、くだけた話し方の語末母音の脱落は起こらない。

語源

dúl-「下る」の完了語幹 dóul-(u → ou の母音交替)に、副詞を作る -in(sérin「このように」、térin「そのように」、pórin「どのように」と同じもの)がついた形。字義は「下り終えて」。時を川の流れと見て、事柄のところを流れがもう通り過ぎたことを表す。動詞の副動詞 -in(léisin「書き終えて」)と同じ語尾で、dóulin はそれが副詞として固まったもの。

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