二つの月――数と双数・複数

この言語が話されている高原では、夜空に二つの月がかかります。大きくゆっくり巡る白月(álmar)と、小さく速く巡る赤月(rúsil)です。空気が澄んだ乾風期の夜には、二つの月と数えきれない星が見えます。

この課では、数を扱います。

市で荷を数えるときにも、夜空を見上げるときにも、すぐに役立つ課です。ただし、高原の人は星を数えません。数えてよいものと、数えてはいけないものの区別も、この課で覚えましょう。

新出語

ín[ˈin]一1。後ろの名詞は単数のままにします。
fáir[ˈfair]四4。「ファイル」のように聞こえます。
lím[ˈlim]五5。語末の m は「ン」に聞こえやすく、「リン」と聞こえることもあります。森の言葉では古い形 lími が残っています。
sóur[ˈsour]六6。「ソウル」。ou は二重母音です。
nél[ˈnel]七7。「ネル」。
ánþa[ˈanθa]八8。þ は英語 think の th で、「アンサ」と聞こえがちです。
réum[ˈreum]九9。「レウム」。r と l の区別に気をつけましょう(lím とは別の語です)。
ombár[omˈbar]十10。「そろった、欠けのない」という意味も帯びた数です。
ombára[omˈbara]十(そろった)「十」の古い形で、星座の名前 ombára ilánai「十の灯」にだけ残っています。数える数ではありません。
álmar[ˈalmar]白月白月。暦の基準になる、重んじられる月です。軽性。
rúsil[ˈrusil]赤月赤月。小さく速い「下の国の月」。軽性。
senó[seˈno]目目。体の部分なので重性。両目は双数で senóu と言います。
már[ˈmar]手手。重性。両手は双数で márou と言います。
ómbo[ˈombo]指指。コラムで、十と指の関係を説明します。
véiran[ˈveiran]配偶者配偶者。人を指す語なので軽性。双数の véiranau で「夫婦」になります。
si[si]と「AとB」の「と」。強勢がなく、後ろの語に寄りかかって発音します。単数のものを二つ並べると、動詞は双数になります。

1. 1から10までの数詞

規則:数詞は名詞の前に置きます。数詞そのものは、格によって形を変えません。

数 高原語 聞こえ方
1 ín イン
2 dáu ダウ
3 téir テイル
4 fáir ファイル
5 lím リム(リン)
6 sóur ソウル
7 nél ネル
8 ánþa アンサ
9 réum レウム
10 ombár オンバール

例

注意点

2. 「一つ」:ín + 単数

規則:ín「一」の後ろの名詞は、単数のままです。動詞もこれまでどおり単数の語尾で受けます。

例

注意点:ふつうは「一つ」と言わなくても、単数の形だけで「一つ」だとわかります。ín をわざわざ言うと、「一つだけ」と数を強調する響きになります。

3. 「二つ」:双数

規則:dáu「二」の後ろの名詞は、双数という「二つ専用の形」にします。

性 双数の語尾 例
軽性 -au sílar 月 → sílarau、virá 言葉 → viráu、aurá 縁鷲 → auráu、véiran 配偶者 → véiranau
重性 -ou gandér 硬木 → gandérou、már 手 → márou、nébro 霧 → nébrou、senó 目 → senóu

双数の動詞:主語が双数のときは、動詞の語尾を -au にします。双数の動詞は、人称も性も区別しません。軽性でも重性でも、「私たち二人」でも「あの二つ」でも、いつも -au です。

3人称単数・軽 3人称単数・重 双数(すべて)
áur- 昇る áura áuro áurau
dúl- 下る dúla dúlo dúlau
és- いる・ある ésa éso ésau

例

「AとB」も双数:単数のものを si「と」で二つ並べると、合わせて「二つ」なので、動詞は双数になります。

注意点

4. 三つ以上:複数

規則:三から上の数詞の後ろの名詞は複数にします。複数の形は「〜が」(主語)と「〜を」(目的語)で分かれます。

型 単数 複数「〜が」 複数「〜を」
軽性(a語幹) virá 言葉 virái viráis
軽性(a語幹) plána 帳簿 plánai plánais
軽性(子音で終わる語) sílar 月 sílarai sílarais
重性(子音で終わる語) gandér 硬木 gandérul gandérul
重性(-o で終わる語) nébro 霧 nébrul nébrul

3人称複数の動詞:主語が複数のときは、動詞の語尾を -an にします。性は区別しません。

動詞 3人称複数
lís- 書く lísan
dúl- 下る dúlan
sén- 見る sénan
és- いる・ある sán(不規則)

例

注意点

複数の「〜の」「〜に」:複数にも、単数と同じように「〜の」「〜に」の形があります。

〜が 〜を 〜の 〜に
軽性 -ai -ais -ar -ail
重性 -ul -ul -ur -uls

5. 数えてはいけないもの:星と目上の人

規則:高原語では、星(ilána)と目上の人には、数詞も双数もつけられません。数えることは相手を物のように扱い、「下げる」ことになるからです。

言いたいこと 正しい言い方 言ってはいけない形
星々が昇る áuran ilánai. ✕ áuran téir ilánai.(三つの星が昇る)
二つの月が昇る áurau dáu sílarau. (月は星ではないので、数えてかまいません)

注意点

例文

áurau dáu sílarau.

読み:アウラウ ダウ シーララウ。

áur-audáusílar-au.
昇る-<双数>二月-<双数>

「二つの月が昇る。」

dáu の後ろの名詞は双数。双数の動詞は人称も性も区別せず -au になります。

áurau álmar si rúsil.

読み:アウラウ アルマル シ ルーシル。

áur-auálmarsirúsil.
昇る-<双数>白月<主格>と赤月<主格>

「白月と赤月が昇る。」

単数の名詞を si で二つ並べると、動詞は双数になります。

dúlan téir gandérul du dálor.

読み:ドゥーラン テール ガンデールル ドゥ ダーロル。

dúl-antéirgandér-uldudálor.
下る-<彼らが>三硬木-<〜たちが>下手下の国<対格>

「三本の硬木が下の国へ下りていく。」

重性名詞の複数は -ul。3人称複数の動詞は -an です。

lísan lisárai lím sáindarais.

読み:リーサン リサーライ リーン サインダライス。

lís-anlis-ár-ailímsáindar-ais.
書く-<彼らが>書く-<〜する人>-<〜たちが>五証文-<〜たちを>

「書記たちが五通の証文を書く。」

軽性名詞の複数は、主語なら -ai(lisárai)、目的語なら -ais(sáindarais)です。

sénim dáu auráu.

読み:セーニン ダウ アウラウ。

sén-imdáuaur-áu.
見る-<私が>二縁鷲-<双数>

「私には縁鷲が二羽見える。」

目的語でも双数の形は同じです(双数は主語と目的語で同じ形)。

ésau dáu senóu méulei.

読み:エーサウ ダウ セノー メウレイ。

és-audáusen-óuméul-ei.
いる-<双数>二目-<双数>毛山羊-<与格>

「毛山羊には目が二つある。」

所有の文では、動詞は持ち主ではなく、持たれている物(ここでは双数の「目」)に合わせます。目は体の部分なので重性で、双数は -ou です。

tórau véiranau es orénos.

読み:トーラウ ヴェーラナウ エス オレーノス。

tór-auvéiran-auesorén-os.
来る-<双数>配偶者-<双数>から縁-<属格>

「夫婦が縁から来る。」

二つでひと組のものは、dáu を言わず双数だけで表すことがよくあります。

sán ombár méulai an dúnoi.

読み:サーン オンバール メウライ アン ドゥーノイ。

sánombárméul-aiandún-oi.
いる<彼らが>十毛山羊-<〜たちが>上手丘-<与格>

「丘の上に毛山羊が十頭いる。」

és- の3人称複数は不規則な sán です。

dúlo ín fáron du orén.

読み:ドゥーロ イーン ファーロン ドゥ オレーン。

dúl-oínfáronduorén.
下る-<(重いものが)>一荷<主格>下手縁<対格>

「荷が一つだけ、縁へ下りていく。」

ín の後ろは単数で、動詞も単数のまま。ín を言うと「一つだけ」の強調になります。

áuran ilánai.

読み:アウラン イラーナイ。

áur-anilán-ai.
昇る-<彼らが>灯-<〜たちが>

「星々が昇る。」

星には数詞をつけません。数を言わない複数 ilánai で「星というもの」を表します。

練習問題

  1. 次の数を高原語で書きましょう。

    (a) 1 (b) 4 (c) 6 (d) 8 (e) 9 (f) 10

    解答

    (a) ín (b) fáir (c) sóur (d) ánþa (e) réum (f) ombár

    ánþa の þ は英語 think の th です。「アンサ」と聞こえても、s ではなく þ と書きます。

  2. 下線部に正しい語尾を入れましょう。

    (a) dúl__ dáu gandér__.「二本の硬木が下りていく」 (b) áur__ dáu sílar__.「二つの月が昇る」 (c) sén-imor sóur méul__.「我々は六頭の毛山羊を見る」 (d) dúl__ téir fáron__ du orén.「三つの荷が縁へ下りる」

    解答

    (a) dúlau dáu gandérou. 硬木は重性なので双数は -ou。双数の動詞は -au。 (b) áurau dáu sílarau. 月は軽性なので双数は -au。 (c) sénimor sóur méulais. 毛山羊は軽性で、ここでは目的語なので複数対格の -ais。 (d) dúlan téir fáronul du orén. 荷は重性なので複数は -ul。3人称複数の動詞は -an。

  3. 次の日本語を高原語にしましょう。

    (a) 二羽の縁鷲が昇る。 (b) 荷が一つ来る。 (c) 書記たちが帳簿を三冊書く。 (d) 白月と赤月が昇る。

    解答

    (a) áurau dáu auráu. (b) tóro ín fáron. 荷は重性の単数なので、動詞は -o。 (c) lísan lisárai téir plánais. 帳簿は目的語なので複数対格 -ais。 (d) áurau álmar si rúsil. 単数が二つ並ぶので、動詞は双数 -au。

  4. 次の高原語を日本語にしましょう。

    (a) tórau véiranau es orénos. (b) sán sóur méulai an dúnoi. (c) ésau dáu senóu méulei.

    解答

    (a) 夫婦が縁から来る。(véiranau は「配偶者」の双数で、「夫婦」を表します) (b) 丘の上に毛山羊が六頭いる。(sán は és- の不規則な3人称複数) (c) 毛山羊には目が二つある。(動詞は、持たれている双数の「目」に合わせて ésau)

  5. ある人が、夜空を見上げて次のように言いました。この文は、高原の人にとってどこがおかしいでしょうか。正しく直しましょう。

    áuran téir ilánai.「三つの星が昇る」

    解答

    星には数詞をつけてはいけません。星を数えることは、祖先を物のように数えることになるからです。数を言わずに áuran ilánai.「星々が昇る」と言います。

    なお、月は星ではないので、áurau dáu sílarau.「二つの月が昇る」は正しい文です。

  6. 発音の問題です。日本語話者の耳には、次のように聞こえることがあります。それぞれ、どの数詞でしょうか。

    (a) アンサ (b) リン (c) レウム (d) テイル (e) オンバール

    解答

    (a) ánþa 8(þ が「サ」に聞こえる) (b) lím 5(語末の m が「ン」に聞こえる) (c) réum 9(eu は二重母音) (d) téir 3(ei は二重母音。語末の r は「ル」と聞こえる) (e) ombár 10(強勢のある á が長く聞こえる)

    (b) と (c) は、どちらもラ行で始まるように聞こえますが、lím は l、réum は r です。母音の違い(i と eu)で聞き分けましょう。

  7. 挨拶 aurénde selvá! に、an ilánail. と返してしまいました。相手が笑いだしたのはなぜでしょう。正しい返しとくらべて答えてください。

    解答

    正しい返しは an ilánais.「星々の方へ」です。-ais は軽性の複数の「〜を」の形で、an と組むと「〜の方へ」になります。an ilánail の -ail は複数の「〜に」の形で、an と組むと「星々のもとで」になります。高原では、星は昇っていった祖先の炉の火です。「星々のもとにいる」は、亡くなって祖先のもとにいる、という祀りの言い回しなので、「私はもう星々のもとにいます」と答えたように聞こえたのです。違いは語末の s と l の一音だけなので、気をつけましょう。

コラム:「十」はそろった数――十の段、十の灯、両手の指

この言語が話されている高原では、古くから十進法が使われてきました。両手の指(ómbo)を一本ずつ折って数えていくと、十でちょうど両手がそろいます。そのため ombár「十」という語には、「そろった」「欠けのない」という意味が重なっています。

この感覚は、社会のしくみにも表れています。高原の身分は十の段でできた階段にたとえられます。いちばん上の王の段は「下りぬ段」で、そこから「一段下り」「二段下り」……と数えて、いちばん下が「九段下り」です。下りぬ段と九つの「下り」を合わせて、ちょうど十になります。段の数が十と決まっているのは、十が「そろった数」だからです。

暦にも十があります。乾風期の初めの明け方、東の空に**「十の灯」**(ombára ilánai)と呼ばれる星の群れがはじめて見えると、新しい年が始まります。この名前の「十」は、ふだんの ombár ではなく、古い形の ombára です。数えた結果ではなく、「そろいの灯」というほどの意味で、名前の一部になっています。高原の人に「十の灯にはいくつ星があるのか」と尋ねても、「十の灯は十の灯だ」と答えるだけで、数えようとはしません。星は昇っていった祖先の炉の火とされ、ふつうの数詞で数えることは禁じられているからです。

いっぽう、二つの月は星ではないので、遠慮なく「二つ」と言えます。この課で学んだ dáu sílarau「二つの月」の双数は、「二つでひと組」のものを表す、都の人が美しいと感じる形です。両目、両手、夫婦、そして空にそろって浮かぶ二つの月。数を言い分ける文法の中にも、高原の人の世界の見方が映っています。

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