雲は軽く、霧は重い――名詞の二つの性

第1課では、挨拶と名乗りを覚えました。この課では、身の回りの物の名前を覚えて、「この〜は…だ」という短い文を作れるようにします。

高原語の名詞は、どれも**「軽いもの」か「重いもの」**のどちらかに分かれています。この土地では、世界を「上へ昇るもの」と「下へ沈むもの」に分けて考えます。息、火、雲、雨、言葉は上へ昇るものです。石、水、霧、塩、硬木は下へ沈むものです。この見方が、そのまま文法になっています。

この課の目標は次の三つです。

  1. 身の回りの物の名前を15ほど言えるようになる
  2. 名詞が「軽いもの」か「重いもの」かを見分けられるようになる
  3. ésa fléura fláin.「雲は軽い」、éso gandér só gróm.「この硬木は重い」のような文を作れるようになる

見た目がよく似た雲と霧が、高原語ではまったく別の扱いを受けます。この課を終えるころには、その理由がわかるはずです。

新出語

elþá[elˈθa]火火。軽性。燃えて煙と光が上へ昇るので、軽いものの代表です。
fléura[ˈfleura]雲雲。軽性。空の高いところにあり、上に属するものです。
réina[ˈreina]雨雨。軽性。上から降る清い水です。地上を流れる水(ílmo)とは別の語です。
hílva[ˈhilva]雪雪。軽性。雨と同じく「上から来るもの」です。
sílar[ˈsilar]月月。軽性。子音で終わるので、形だけでは性がわかりません。
plána[ˈplana]帳簿帳簿。軽性。紙でできていて、言葉を載せて昇るものとされます。
virá[viˈra]言葉言葉。軽性。言葉は息なので軽いものです。
éndra[ˈendra]人人。軽性。人はいつも軽性です。
nébro[ˈnebro]霧霧。重性。雲に似ていますが、地面から湧く「下のもの」です。
ílmo[ˈilmo]水水。重性。地の上を流れる水、器に入った水を指します。
sáko[ˈsako]塩塩。重性。崖の下から来る貴重品です。
kumbór[kumˈbor]青銅青銅。重性。金属はすべて重いものです。子音で終わるので、性は覚えるしかありません。
glünó[glyˈno]氷氷。重性。雪は軽性ですが、氷は重性です。地上の水が凍ったものだからです。
fáron[ˈfaron]荷荷。重性。
kéumo[ˈkeumo]碑碑。重性。石に刻んだ言葉は昇りも消えもせず、その場所にとどまります。
gléin[ˈglein]清い清い。主語のすぐ後ろに置きます。
gróm[ˈgrom]重い重い。
fláin[ˈflain]軽い軽い。
klér[ˈkler]冷たい冷たい。
þáil[ˈθail]澄んだ澄んだ。空や水、月によく使います。
sé[ˈse]このこの(軽性の名詞につける)。
só[ˈso]この(重)この(重性の名詞につける)。
tó[ˈto]あの(重)あの(重性の名詞につける)。軽性の「あの」té は第1課で習いました。

1. 名詞の二つの性:軽性と重性

規則:高原語の名詞は、すべて軽性か重性のどちらかに属します。「性」は、名詞が文法の上でどちらの仲間に入るかの区別です。高原語では、男か女かではなく、上へ行くものか下へ行くものかで分かれます。

軽性(上へ行くもの) 重性(下へ行くもの)
selvá 息、elþá 火、virá 言葉 gandér 硬木、kumbór 青銅、kéumo 碑
fléura 雲、réina 雨、hílva 雪 nébro 霧、ílmo 水、glünó 氷
ilána 灯、sílar 月 sáko 塩、fáron 荷
éndra 人、endríña 子ども
plána 帳簿(紙)

見分けの目安

語の終わり たいてい 例
-a で終わる 軽性 fléura, réina, plána, virá
-o で終わる 重性 nébro, ílmo, sáko, glünó, kéumo
子音で終わる どちらもある 軽性 sílar/重性 gandér, kumbór, fáron

注意点

2. 「〜は…だ」の文:ésa と éso

規則:「AはBだ」と言うときは、動詞 és-「〜である」を文の頭に置きます。順番は és- + 主語 + 形容詞 です。動詞の語尾は、主語の性に合わせて変わります。

主語の性 動詞の形 例 訳
軽性 ésa ésa virá gléin. 言葉は清い。
重性 éso éso gandér gróm. 硬木は重い。

語尾の -a は軽いもの、-o は重いもののしるしです。第1課で、動詞が文の頭に来ることを学びました。「〜である」の文も同じです。

例

注意点

3. 「この」「あの」:指示詞は名詞の後ろ

規則:「この」「あの」は、名詞の後ろに置きます。形は、名詞の性によって変わります。

この あの
軽性の名詞 sé té
重性の名詞 só tó

軽性では -é、重性では -ó です。ここでも「o は重い」と覚えておくと便利です。

例

文の中では és- + 名詞 + 指示詞 + 形容詞 の順になります。

注意点

例文

ésa fléura fláin.

読み:エーサ フレウラ フライン。

és-afléurafláin.
である-<(軽いものが)>雲<主格>軽い

「雲は軽い。」

fléura は軽性なので、動詞は ésa です。

éso nébro gróm.

読み:エーソ ネーブロ グローン。

és-onébrogróm.
である-<(重いものが)>霧<主格>重い

「霧は重い。」

霧は重性なので、éso になります。例文1と比べてください。

ésa réina gléin.

読み:エーサ レーナ グレーン。

és-aréinagléin.
である-<(軽いものが)>雨<主格>清い

「雨は清い。」

雨は上から降る水なので、軽性で清いものとされます。

éso gandér só gróm.

読み:エーソ ガンデール ソー グローン。

és-ogandérsógróm.
である-<(重いものが)>硬木<主格>この<重性>重い

「この硬木は重い。」

重性の名詞には só「この」を使います。

ésa plána sé fláin.

読み:エーサ プラーナ セー フライン。

és-aplánaséfláin.
である-<(軽いものが)>帳簿<主格>この<軽性>軽い

「この帳簿は軽い。」

紙の帳簿は軽性なので、sé を使います。

éso ílmo tó klér.

読み:エーソ イルモ トー クレール。

és-oílmotóklér.
である-<(重いものが)>水<主格>あの<重性>冷たい

「あの水は冷たい。」

重性の「あの」は tó です。

ésa sílar þáil.

読み:エーサ シーラル サイル。

és-asílarþáil.
である-<(軽いものが)>月<主格>澄んだ

「月が澄んでいる。」

sílar は子音で終わりますが、軽性です。

éso glünó tó klér.

読み:エーソ グリュノー トー クレール。

és-oglünótóklér.
である-<(重いものが)>氷<主格>あの<重性>冷たい

「あの氷は冷たい。」

雪(hílva)は軽性ですが、氷は重性です。

ésa endríña sé fláin.

読み:エーサ エンドリーニャ セー フライン。

és-aendríñaséfláin.
である-<(軽いものが)>子ども<主格>この<軽性>軽い

「この子は軽い。」

人はいつも軽性です。子どもを抱き上げたときなどに言います。

ésa elþá gléin, éso sáko gróm.

読み:エーサ エルサー グレーン、エーソ サーコ グローン。

és-aelþágléin,és-osákogróm.
である-<(軽いものが)>火<主格>清いである-<(重いものが)>塩<主格>重い

「火は清く、塩は重い。」

軽性と重性の文を二つ並べました。動詞の語尾 -a と -o が対になっています。

練習問題

  1. 次の名詞を、軽性と重性に分けてください。

    fléura 雲/nébro 霧/kumbór 青銅/hílva 雪/glünó 氷/sílar 月/fáron 荷/virá 言葉/sáko 塩/éndra 人

    解答
    • 軽性:fléura、hílva、sílar、virá、éndra
    • 重性:nébro、kumbór、glünó、fáron、sáko

    迷いやすいのは、子音で終わる sílar(軽)、kumbór・fáron(重)です。また、雪は上から来るので軽性、氷は地上の水が凍ったものなので重性です。

  2. ( )に ésa/éso、または sé/só/tó を入れてください。

    1. ( ) nébro gróm.「霧は重い」
    2. ésa plána ( ) fláin.「この帳簿は軽い」
    3. éso kumbór ( ) gróm.「あの青銅は重い」
    4. ( ) réina gléin.「雨は清い」
    5. éso sáko ( ) klér.「この塩は冷たい」
    解答
    1. éso(霧は重性)
    2. sé(帳簿は軽性)
    3. tó(青銅は重性。「あの」なので tó)
    4. ésa(雨は軽性)
    5. só(塩は重性。「この」なので só)
  3. 次の日本語を高原語にしてください。

    1. この雲は軽い。
    2. あの碑は重い。
    3. 水は冷たい。
    4. この言葉は清い。
    解答
    1. ésa fléura sé fláin.
    2. éso kéumo tó gróm.
    3. éso ílmo klér.
    4. ésa virá sé gléin.

    語順はいつも「és-・名詞・(指示詞)・形容詞」です。動詞の語尾と指示詞を、名詞の性に合わせることを忘れないでください。

  4. 次の高原語を日本語にしてください。

    1. ésa hílva þáil.
    2. éso fáron tó gróm.
    3. ésa elþá té gléin.
    解答
    1. 雪は澄んでいる(白く澄んでいる)。
    2. あの荷は重い。
    3. あの火は清い。

    3の té は、第1課の呼びかけ「そこの方」と同じ語です。ここでは軽性の名詞 elþá について「あの」の意味で使っています。

  5. 発音の問題です。

    1. ésa と éso は、くだけた話し方ではどちらも同じ形に聞こえることがあります。どんな形でしょうか。また、そのとき性は何で判断すればよいでしょうか。
    2. glünó「氷」で強く発音する音節はどこですか。最初の母音 ü は、日本語話者の耳にどう聞こえやすいでしょうか。
    3. ある人が gandér sé と言いました。どこが誤りでしょうか。
    解答
    1. 語末の母音が落ちて、どちらも és と聞こえます。性は、後ろに来る主語の名詞(fléura なら軽、nébro なら重)から判断します。
    2. 強勢は最後の -nó にあります(´ のついた音節です)。ü はイの舌の位置で唇を丸める音で、「グリュノー」「グリノー」のように聞こえやすい音です。
    3. gandér は重性なので、「この」は só にしなければなりません。正しくは gandér só です。

コラム:雲は上に、霧は下に――同じに見えても別のもの

この言語が話されている高原では、一年に二度、崖の下の湿った空気が上がってきます。けれども、その上がり方は季節によってまったく違います。

雨期には、南からの強い風が崖にぶつかり、湿り気を一気に空高く押し上げます。湿り気は高い雲になり、高原の空を屋根のように覆います。この土地の人々は、この雲を「天の屋根」と呼びます。下から昇った湿り気は、天に届いていったん清められ、祖先の手で雨として上から返されてくる、と考えられています。ですから、雲(fléura)も雨(réina)も雪(hílva)も、上に属する軽性の名詞です。軒で集めた雨水は、墨をするのにも祀りの器を清めるのにも使われます。

霧期には、湿った空気が崖を這い上がり、冷えきった地面に触れて、そのまま濃い霧になります。霧は天を通りません。地面から湧き、人の体にまとわりつき、空と人とのあいだに割りこみます。この土地では霧を「下の国の息」と呼び、病や嘘や争いを運ぶものとして恐れます。霧(nébro)が重性なのは、このためです。

崖の上から霧の海を見下ろすと、白く広がるその姿は、雲とほとんど見分けがつきません。それでも高原の人は、霧を決して fléura とは呼びません。「同じに見えるから同じもの」ではなく、「どこから来たかで、ものは別のものになる」のです。

同じ考え方は、身の回りのあちこちに見られます。上から降る雪は軽性ですが、地上の水が凍った氷(glünó)は重性です。崖の下から上がってくる塩(sáko)も重性で、「下からの恵み」と呼ばれます。ありがたいけれど、少し後ろめたいものとして扱われているのです。

名詞を覚えるとき、「これは上から来たのか、下から来たのか」と考えてみてください。性を覚える近道になるだけでなく、この土地の人々の目で世界を見る練習にもなります。

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